私はアイスクリームが嫌いです【姫野カオルコ直木賞授賞式スピーチ全文】

直木賞授賞式 2014/02/20@帝国ホテル

 姫野カオルコ直木賞授賞式スピーチ全文

 #姫野さんはスーツでした

 

来てくださったみなさん、ありがとうございます。

 

みなさんにも、いろいろと、ご事情がありましたでしょうに、

(会場:くすくすくす)

 

この日、この時に、この会場に来てくださったこと、有難うございます。

 

そして選考委員の先生におかれましては、

長い間、好みじゃない私の小説を読まなくては いけなくて、大変だったと思います。

 

もうこれで、読む必要はなくなりましたので、

どうぞ安心してください

(会場:どっと笑い)

 

 

今日は、着慣れない服で……、

いつも こうゆう格好をしてませんので

急遽ネットショップでスーツを買いました

 

それで靴も、すごく痛くて、

そこからここまで歩いてくるだけで、脱げそうで、すごく怖くて、

 

それで、喋るのが、お聞き苦しいかもしれませんが、お許しください

 

 

私はアイスクリームが嫌いです。

私はアイスクリームが嫌いです

モンブランケーキも大嫌いです。

 

それに

あつあつシロップのかかったワッフルと言うものも嫌いです

 

なら食べなければいいじゃないか、と思われるかもしれませんが

 

甘いお菓子が嫌いと言う事は

普段暮らしていく中で何かと困ることがよくあるのです

 

例えば、私の住まいに訪れて下さる皆様方は、

もう必ずと言っていいほど、

お菓子を持ってきてくださいます

 

その気持ちはとても嬉しいのに、食べるのは嫌い

 

だからそれを誰かに差し上げようとするとなると、くださった方に申し訳なくなる。

くださった方の気持ちは嬉しい、でも困る、あげたら悪い。

 

嬉しい、困る、悪い。

 ……すごくいつも悩んでしまいます

 

お菓子くらいだと、そのくらいの笑い話になるんですけれど

 

でも世の中には多分、

その世の中にいる人の分、

マイノリティな感覚,マイナーな感受性と言うものがあると思うんです

 

人は1回しか人生を生きられません

 

小説を読む楽しさは

自分が生きられない人生とか

自分と違う感受性を、見て知ることができることだと思います

 

それを見、知ることによって……

優しい気持ちになるというのではなく……

 楽しい。楽しい気持ちになれる。

 

こんな人もいるんだ、と、ぱーーっと楽しい気持ちになれるのには、

 

多分、映画よりも漫画よりも、

小説だと思います

 

 

映画も漫画もとても魅力的な文化です

小説は、それに比べ、とても地味です

 パッと引きつけることはできません。

炭で肉を焼くように時間がすごくかかる。

 

でも自分じゃないもの、

もしくは、

自分に似たもの、

という感性を、じっくりと読むには

いちばん適した媒体だと思います

 

お肉も、炭焼きで焼いたお肉が1番おいしいと思います

 

芥川賞直木賞の功績は

普段、映画や漫画のことに目を奪われている人を

ああ、こーゆーものもあったんだ

と、知らせるチャンスを与えてきたことだと思います

 

 

、私は、ノミネートされるたび、とても励みになりました。

 

が、このたびの受章は

今までずっと私を励ましてくれたお友達や

マイナーなセンスの読者への贈り物だと思います

 

今日は本当にありがとうございました